2015年9月22日火曜日

Day 22 リラクゼーションサロンの盗リートメント

 トニーは今日フトニーと、新しく出来たという、森の中のリラクゼーションサロンに行くことにした。
 いつものようにフトニーがトニーをトニーの家まで車で迎えに来た。車の中から、目をしばしばさせているフトニーがトニーに手を振った。トニーがフトニーの車をよく見ると、車のナンバープレートの横の部分が、少し凹んでいる気がする。トニーが助手席に座る時にフトニーに、「あそこ、ちょっとへっこんでいる気がするんだけど、大丈夫か?」と聞くと、フトニーが、「ちょっとこれを聞いてくれ」と言って、ちょうどいい温度のとろけたシチューが頭の上からゆっくりと垂れて来るかのような、ゆる~いヒーリング系のリラクゼーション用音楽をかけた。「これを聞きながら運転してたんだけど、ちょっとウトウトしちゃって」とフトニーが言った。それを聞いてトニーが、「それって、交通事故寸前だったんじゃないか?」とフトニーに言うと、フトニーが、「いやぁ~、危なかったよ、正直。でも運良く助かったよ」と応えた。トニーが「それで?」と相槌を打つと、フトニーが、「音楽が気持ち良すぎてマジでウトウトしたんだけど、ちょうど対向車が大音量の音楽をかけていて目が覚めたんだよ」と言った。「ロックミュージックとか、助かるよな、眠い時には」とトニーが言うと、フトニーが、「いや、大音量のヒーリング音楽だったんだ」と言った。


 眠くならないように、車内で2時間ぐらいずっと大音量でヒーリング音楽を聞きながら、目的のリラクゼーションサロンに着いた。「鬱陶しいほどウトウトサロン」。ここに違いないと思いトニーとフトニーは車から降りて入店した。
 店内に入ると、聞こえるか聞こえない程度の音量で、フトニーの車で大音量でかけていたヒーリング音楽が優しく流れていた。そのせいなのか、受付に進むと、受付係の若いおねぇ~さんが受付台に手を伏せながらぐっすりと寝ていた。「すいません」とトニーが声をかけると、「あっ、すいません。私ついウトウトしてしまって」と言って、受付係のおねぇ~さんが目を覚ました。「今から従業員を起こしますんで、もう少しここでお待ちください」と言って、奥の部屋でフカフカの布団の中で寝ていた従業員を起こしに行った。従業員が起きて来るまで、トニーとフトニーは待合室で待っていた。
 しばらくして、先ほどのおねぇ~さんが「トニーさん、フトニーさん?」と、肩をポンポンと叩いて起こした。そして、「終わりましたよ~」と、眠そうな目をこするように言ってきた。窓の外を見ると、既に日は落ちていた。トニーがおねぇ~さんに、「あれっ、俺達まだリラクゼーションサービスを受けていないはずですけど」と言うと、おねぇ~さんが二人に、「いえいえ、お二人とも、もう2時間以上も目を閉じてリラックスされていましたよ~」と返答した。これで一人当たり1万円。「盗られたな」とトニーは言ったが、フトニーは「確かにスッキリしたからいいじゃん」と応えた。確かに頭がスッキリとした二人は、家に帰ることにした。


 自宅に帰ると、トニーは両親にすべて説明した。リラクゼーションサロンに行ったこと、サロン内の待合室で、フトニーと二人で2時間以上リラクゼーションサービスを受けたこと、そして、帰りの車内ではフトニーが居眠り運転をしないように爆風スランプの『runner』をかけて運転し、スピード違反で取り締まりを受けたことなど。
 それを聞いていたトニーの父さんがトニーに言った、「今テレビを見てたんだが、そのサロン、従業員がぐっすりと寝ていて、強盗に入られてたった今倒産したらしいぞ」。

2015年9月20日日曜日

Day 21 悪質な併殺崩しのスライディングを上手く避ける最新技術と新ルール?-何となく、失敗の匂いがする

 トニーは今日フトニーと、暇つぶしに野球観戦に行くことにした。メジャーリーガーと日本選抜が、極秘で試合を行うという情報をフトニーが手にしたからだ。話によると、ダブルプレーでの併殺を阻止する際に選手がスライディングをして、選手の大怪我につながるのを防ぐための最新技術と新ルールを試すらしい。


 フトニーがトニーを車で迎えに来た。フトニーはメジャーのあるチームのユニフォームらしきTシャツを着ていた。シャツの前面には、「ShineAnts(シャインアンツ」と書かれていた。背番号はドクロ ww (これはいくらなんでもダッセェー…)とトニーは思ったが、なんとか口に出さずに我慢した。我慢できずに言いそうになったが(正確に言えば「ダ」までは言ってしまったが)、その後なんとかくしゃみをしてごまかした。フトニーの帽子についていた、漫画のような馬糞についてはスルーした。
「じゃ、今日も行くぞ!」と気合の入った声でトニーを車内に呼び込んだ。トニーは乗車前に、「ThaiBaht(タイバーツ)」と書かれたユニフォームのシャツに着替えてから乗り込んだ。


 極秘の試合が行われる極秘の球場を探しまわること3時間。想定以上に時間がかかってしまった。球場のスコアボードを見ると、既に12回の表。ランナーは1塁。アメリカの攻撃で、日本が守っていた。外野はものすごい前進守備で、皆2塁ベースの方をチラチラ見ている。レフトだけはライン際を守っていたせいか、かなり遠くにいた。だが、はめていたグローブの外側には、双眼鏡らしきものが組み込まれていた。これも新型ベースボールテクノロジーなのかもしれない。
 球場には応援団などもおらず、マスコミも完全シャットアウト。球場は静寂に包まれて、カキーン、バシッ、ポリポリッ、バキッ!、ズドーン、くっせぇーなどの音しか聞こえない。
 トニーとフトニーがそれをこっそりとグーグルグラスをかけながら見ていると、両軍ベンチの監督やコーチ、さらにオーナーらしき人物らが、ざわざわとし始めた。二人は固唾を呑み、酎ハイを飲みながら見守っていると、打者がセカンドへゴロを打った。1塁ランナーが勢い良く二塁へ走りこむと、「おい、トニー! あれを見ろ!」とフトニーが言った。なんと、普通の二塁ベースの横に、もう一つのセカンドベースが地上から現れた。するとランナーは、そのもう一つのセカンドベースに向かって激しいスライディングをぶちかました。その時ショートは、もう一つのベースから一瞬煙が上がったせいか、口や鼻の周りを抑えながら、通常の二塁ベースを踏んで一塁へ送球しゲッツー。それを見てフトニーが、「なるほどな。これなら併殺殺しのスライディングで選手が怪我をすることもないし、走者も好きなだけ激しいスライディングをできるわけだな」と、固唾と酎ハイを混ぜて飲みながら言った。
 フトニーはグーグルグラスでデータを取りながら、その仕組を解読した。まず、スコアボードに注目。すると、打率、ホームラン数などの他に、「走塁危険率」という項目が新たに加えられていた。どうやら、この走塁危険率が高い走者が塁上に現れると、審判は気分次第で、リモコンの遠隔操作でもう一つのベースを出せるらしい。確かに審判の手を見ると、左手に福沢諭吉を握りしめていた一方で、右手にはリモコンを持っていた。このリモコンでベースを出したり隠したりして、スライディングの怪我を防ぎつつ、走者の激しいスライディング欲求も満たすという、画期的な仕組みだろう。この新しいシステムを見て安心したのか、フトニーの固唾は柔らかくなった。それを見てトニーも安心し、二人は帰ることにした。


 自宅に帰ると、トニーは両親にすべて説明した。メジャーと日本の極秘試験試合をフトニーと見に行ったこと、フトニーがコンビニのエロ本コーナーで興奮し、2時間も滞在したせいで、試合に着いたら既に12回の表だったこと、球場は静寂に包まれていたこと、二塁ベースに、スライディング専用のもう一つのベースが現れて、万事うまくいったことなど。
 それを聞いていたトニーの父さんがトニーに言った、「今CSの高い有料チャンネルで特集してたんだが、そのベースはまだ実戦では使えないらしいぞ」。トニーが「どうして?」と聞くと、トニーの父さんは言った、「そのもう一つのベースは、馬糞でしか作れないんだって」。

2015年9月17日木曜日

Day 20 人間万事塞翁が馬とは?-プライベートジェット物語からの考察

 トニーは今日フトニーと、フトニーの友達を迎えに空港へ行くことにした。その友達は、親の都合で10代の頃から海外に住んでいるという。久しぶりの帰国ということで、日本でフトニーならではのおもてなしをしたいとフトニーが意気込んでいた。

「バタバタバタバタバタバタ」と大きな音を立てて、先月墜落しかけたというプライベートジェットをトニーの家の庭に無理やり着陸させて、トニーを迎えに来た。「これ、ドア開いたままで操縦して大丈夫なのか??」とトニーが心配そうに言うと、「ドアを開けないと、機内が暑いからな!」と、大きくVサインと書かれた手のひらをトニーに向けて応えた。「じゃ、乗れよ! トニー!」と言われて、トニーは念のため木工用ボンドを持ってプライベートジェットに乗り込んだ。


 トニーのボンドを物ともせず、迎えに来た時よりもさらに開いたドアをグラングランさせながら、フトニーがプライベートジェットを30分ほど操縦し、空港に着いた。トニーがフトニーに、「プライベートジェットなのに、完全にノープライバシーだな、これ」と言うと、フトニーが「ジャンボジェット機に大きさでは負けるが、心はこっちの方がジャンボだ」と、鼻水をジャージャー垂らしながら言った。トニーが「フラフラしてるけど、やばいんじゃない?」と言ってフトニーのおでこに手を当てながら、フトニーに体温計を渡した。3分後、フトニーの体温が39℃。そのまま、プライベートジェットを置いて、タクシーで近くの病院に駆け込んだ。


「お薬3日分出しておきますから。安静にしておいてくださいね」と、自動音声案内で言われたフトニーは、待合室に戻った。
 待合室のテレビを見ると、緊急テロップが出てきた、「外国からプライベートジェット機と思われる小型飛行機が、ドアを全開にブランブランさせながら、急降下中」。高熱で少しフラフラ気味のフトニーは寒気を感じた。その寒気は高熱のせいなのか、画面に映っている、急降下中のプライベートジェット機から友達らしき人物が風に煽られて、操縦席から機内の外に吹き飛ばされているからなのかは分からなかった。
 フトニーは、ボンドでがっちりとくっついた物体のように、食い入るようにテレビを見ていた。すると、友達が強風で煽られながら急降下しながらも、奇跡的にドアがブランブランになってがら空きの、空港に放置してきたフトニーのプライベートジェット機にスポッと吸い込まれて無事だった様子が映し出された。それを見て安心したのか、フトニーの体温も36℃まで急降下し、1日分の薬を返して、多少の返金を受けて帰宅した。


 トニーは家に帰ると、今日の出来事を両親にすべて説明した。フトニーの友達をフトニーのプライベートジェットで迎えに行ったこと、木工用ボンドが効かなかったこと、フトニーが急に高熱を出し、病院に行ったこと、フトニーの友達もプライベートジェット機でやって来たが、全開のドアから飛び出して急降下し、死ぬかと思ったが、フトニーのプライベートジェット機の全開になったドアに助けられたことなど。
 その話をした後、トニーの父さんがトニーに言った、「目には目を、ドア全開プライベートジェット機にはドア全開プライベートジェット機を、という諺を覚えておきなさい」。

 トニーは寝る前に、フトニーのユーチューブの動画チャンネルを見ると、先ほどのシーンの動画がアップロードされていた。どうやら、フトニーのプライベートジェットの自動動画撮影機能で撮った動画をアップしていたらしい。2時間前にアップロードしたばかりの動画の再生数は、既に1000万回を超えていた。コメント数も23千を超えていて、凄まじい。コメントでもこの出来事の凄さがよく伝わってきた:
・「なにこのありえない映像 wwwww
・「開きっぱのプライベートジェットって www しかも何でそこに人が空から落ちてくるの wwwwww
・「この奇跡の動画を見て、ニートを止めて働く気持ちが湧いてきました! 僕も明日からユーチューバーになります!」
・「これ、確かに広告だけでやばいぐらい稼げるんじゃない www ってか、こんな動画一般人の俺には絶対無理ゲーだけど wwwww
・「俺も車だけど、ちょっとドア壊してくるわ www
・「儲かってすいませんm(__)m

 最後のコメントはフトニー本人のコメだったが、確かにこれは儲かるだろう。懸賞運が奇跡的なだけじゃなくて、こういう技術もフトニーは持っているから恐ろしい。こんな大事件でフトニーも友達も事故死するかという場面ですら、これだけのビッグイベントにつなげて、しかも一瞬で大金を稼ぐという…。

 まさに、人間万事塞翁が馬。人生なんて、最後まで何が起きるかわからない。

2015年9月15日火曜日

Day 19 幻のラーメン屋の秘密

 トニーは今日フトニーと、「幻のラーメン」と言われるラーメンを食べに行くことにした。フトニーがフトニーの友達に聞いた情報で、どうやら幻の豚骨と言われるスープが一部の通のみに知れ渡っているらしい。

 フトニーがトニーを車で迎えに来ると、トニーは助手席にどっさりと積んであった幻ではない麺をトランクに移してからシートに座った。「天気のいい日にあの麺を助手席に載せて車内の高温で乾燥させると、幻の麺が出来るかもしれないって聞いてさ」と、フトニーはトニーに不敵な笑みを浮かべて自信を見せた。「あれが麺じゃなくて、子供だったら事件だぜ」とトニーが言うと、「それぐらい車内乾燥麺は、何らかの幻の隠し味につながってるんだろうなぁ~」と、車載テレビの相撲中継を見ながら言った。


 閑静な住宅街を、何かが後方で縦横無尽にガサガサと大きな音を立てながら動く車を2時間ほど走らせて、人里離れたそば屋ではないラーメン屋らしき店に着いた。『ラーメン屋、幻』。「間違いない、ここだろう」とフトニーがトニーに、トランクの乾燥麺を一緒に運ぶように指示し(万が一質が認められれば、常連客用の秘密の割引を受けられるかもしれないという)、トニーと一緒にボロボロと落ちつつあった乾燥麺を、3か月天日干しした鉄製の手袋をはめながら、温度を保ちながら、「アツイアツイ!」と言いながら『ラーメン屋、幻』に入った。

 店内に入ると、地面から天上まで山積みにされた乾燥麺が、麺で『幻』という字を作るように積まれていた。「幻感ハンパねぇ!」とテンションが上りフトニーが思わず声を出すと、幻と書かれたTシャツを着た常連客らしき集団が、親指を天高く上げてラーメンをズルズルと食べた。
 トニーとフトニーは席に座り、メニューを見た。
「味噌ファンでも見逃せない幻の醤油」
「醤油ファンでも見逃せない幻の塩」
「塩ファンでも見逃せない味噌」
「味噌ファンでも見逃せない幻の塩」
「醤油ファンでも見逃せない幻の味噌」
「塩ファンでも見逃せない醤油」
「どのファンでも絶対に見逃せない幻の麺無しスープ無し募金」
 
 さすがに幻のラーメン屋だけあって、メニューからして普通ではない。そのため、トニーとフトニーは、ラーメン屋のオーナーがじっくりと時間をかけてダシを取り、仕込みに時間をかけるように、慎重に時間をかけてメニューを決めた。二人がメニューを決めた頃にはすっかりと他の客もいなくなり、日も暮れていた。
トニーが「俺、味噌」と言い、フトニーが「じゃあ、俺は醤油」とメニューを決めた二人は、それぞれ「幻の醤油」と「幻の塩」をズルズルっと決断を延ばすように麺を口の中に放り込んだ。
 
 店を出た後、「いやぁ~、すごい味だったな。ちょっと高かったけど」と二人は口をそろえて言った。二人で9000円。幻のラーメンだけあって高かったが、幸運な生活を送る二人にとって、決して高くはなかった。二人は満足気に、トランクが空になって軽くなった車に乗り込み、帰ることした。


 トニーは家に帰ると、今日の出来事を両親にすべて説明した。幻のラーメン屋に行ったこと、フトニーがごっそりと乾燥麺を車に積んで、幻の麺を作ろうとしていたこと、そして、幻のラーメンを作るのと同じかそれ以上に複雑なメニューなど。
 その話をした後、トニーの父さんがトニーに言った、「今テレビでそのラーメン店のオーナー捕まったぞ。募金詐欺だかで」。
 驚いたトニーは慌てて領収書を確認した。
・味噌ファンでも見逃せない幻の醤油 1500
・醤油ファンでも見逃せない幻の塩 1500
・どのファンでも絶対に見逃せない幻の麺無しスープ無し募金 7000
・幻の乾燥麺 -1000

2015年9月13日日曜日

Day 18 シャワートイレ購入物語-前編後編

 トニーは今日、自宅のシャワートイレの調子が悪くなり、新しいシャワートイレを買いに行くことにした。車の免許を持たないトニーは、今日もやはりフトニーに車で連れて行ってもらうと、フトニーにメッセージを送った。するとフトニーから、「俺もたった今シャワートイレを使いながら、シャワートイレのない友達がシャワートイレを買いに行く場面を想像していたとこだぞ」と返信があった。タイミングが一致した二人は、一緒にシャワートイレを買いに行くことにした。
 フトニーがトニーを迎えに来た。トニーはちょうどシャワーを浴び終えて、ドライヤーをケツに当て終えていた。「よしッ!」と準備を終えたトニーは、シャワートイレを宣伝していたテレビショッピングが映っていたテレビを消して、フトニーの車に乗り込んだ。


 車で20分ぐらい走り、トイレ関連用品を販売しているという、小さなショールームの前に着いた。ショールームの入り口の看板には『Than BENZA』という社名が書かれていた。ザン・ベンザ。便座よりも、便座以上に何か価値がある、という意味でも込められているのだろうか。
 ショールームの入り口を開けると、「いらっしゃいまシャワー!」という威勢のいい声を営業社員らしき人が出し、それに続いて他の従業員らが「シャワー!!」と大きな声を連呼させた。スペースが小さいせいなのか、品質の高い商品を扱っているのかは分からないが、想像以上に人が溢れていた。奥の展示スペースからは、水も溢れていた。
「切れ痔ですか、それともいぼ痔ですか?」と、若い営業員がトニーに笑顔で接客してきた。それを聞いたフトニーがトニーの耳元で小さな声で、「これ、マジ?」と半笑いで言ってきた。それを聞いたトニーは店員に言った、「お尻の清潔を維持するのが大事」。それを聞いた店員から笑顔が消え、店内が一瞬厳かな空気に包まれた。ある社員は、棚にたくさん並べられていた本を急に漁り出し、「お尻の清潔を…」と小さな声で復唱しながら、中国の古典書をババっと開いてトニーの言葉を調べようとしていた。店側が只者ではないと判断したのか、水が溢れていた奥の展示スペースから、最低部長クラスだろうという幹部社員が体を90度、あるいは最大で110度程度かという角度にシャキッと曲げて、トニーを奥の展示スペースへと招き入れた。

 トニーとフトニーは、激しい雨の日に水たまりの中を歩いた時に、靴がクチャクチャと音をするときのように靴を濡らしながら入室した。
 中に入ると、社長のスローガンらしきものが掲げられていた、「お客様の便座に湯水の如く」。フトニーはそれを見て爆笑しそうになったが、必死に口を手で抑えてトニーの後ろの方で我慢していた。トニーも歯が取れそうなほど笑いをこらえたが、そんな二人を見て部長も大笑い。
 店内に「いらっしゃいまシャワー!」、「今いらっしゃいまシャワー!」などのバリエーションも響き渡る中、三人で大笑いした後、トニーはすぐに100万円のシャワートレイを買って帰った。


 トニーは家に帰ると、今日の出来事を両親にすべて説明した。ザン・ベンザというトイレ関連用品を扱う会社に行ったこと、従業員の威勢が良かったこと、笑顔の接客、客も水も溢れるショールーム、便座に豊かな水を供給するという熱意が込められたスローガン、ちょっと高かったかもしれないが、100万円のシャワートレイを即決で買ったこと。
 その話をした後、トニーの父さんがさっそくシャワートレイを使い、トニーに興糞気味に言った、
「値段は確かにちょっと高かったが、このシャワーは凄いぞ! 前からでも後ろからでも水が出せるぞ!」

2015年9月9日水曜日

Day 17 釣り竿一直線

 トニーは今日フトニーと、釣りをすることにした。フトニーがトニーの家に車で迎えに来た。
 トニーの家を出発して5分、トニーが車内でフトニーに、「ちょっと止めてもらえる!?」と言い出した。道路に500円玉が落ちているのを見つけた。
 トニーは車から降りて500円硬貨を取りに行くと、「うわぁ~~~~! やべぇ~~~~~!」と急に大きな声を出した。やくざ風のモヒカン男が急にトニーの釣り竿を奪い取り、逃げようとした。その逃走中に、その男が半開きになっていたマンホールに釣り竿を落としてしまった。フトニーは車から、そのシーンをはっきりと見ていた。しかも、片手にはスマホを持っていて、その男が釣り竿を落とす場面、そしてトニーのリアクションを動画撮影していた。
 トニーが車に戻ると、フトニーが気味の悪い笑みを浮かべて、「これは相当の再生数を稼げそうだな」と言った。また、ユーチューブにこの動画をアップするという。
 トニーが車の中で気を落としていると、「まっ、そう落ち込むなよ!」とフトニーがトニーに、フトニー愛用の釣り竿を渡した。「今日はこの釣り竿を一緒に使おうぜ!」と明るくトニーに言ったが、トニーは4つの手が一本の釣り竿を持っている場面を冷静に想像して、「釣りしづらそうだな…」と思わずネガティブな言葉を漏らした。そうは言いながらもフトニーの高級な釣り竿をいじっていると、「痛ってぇ~! おいっす!」とトニーが声を出した。釣り針と手に持っていた方位磁石の針が絡まり、方位磁石を取り出そうとして方位磁石の方位磁針に釣り針が引っかかって、取ろうとして手を怪我したトニーは病院に行き先を変えた。


 20分ぐらい病院を探しまわって、古びた病院を見つけた。
フトニーがトニーに、「あれっ? こんなところに病院なんてあったっけ?」と言うと、手が切れて血が出ていたトニーが、先ほど釣り竿の針と方位磁石の針を付け替えた方位磁石で方向を確認し、「よし、行こう」とフトニーを釣り竿でせかした。
 幸運にも、院内に誰も患者はいなかった。患者どころかナースもいなそうだったが、
「どうぞ」と先生に声をかけられて、トニーは診察室に入った。
「どうしました?」
「自分の釣り竿を893風の男に奪われて、そいつがマンホールに落としてしまって、友達の釣り竿を借りてちょっと遊んでいたら、釣り竿の針と方位磁石の針が絡まって手を切ってしまって…」
「よくありますよね」
トニーは穏やかで優しそうな先生に、事情を説明した。すると続けて先生は、「あのマンホールって、たまに開いている時があるんですよね。気をつけてほしいものです。私も一度大事なカルテを落としてしまって、マンホールの下に潜ったことがあるんですよ」と、トニーの目を見て話した。その話を聞いてトニーは、奪われて落とされた釣り竿を取り戻せるかもしれないと考えて、マンホールの場所に戻ることにした。


 トニーとフトニーがマンホールに戻ると、マンホールは既に固く閉じられていた。トニーは病院の先生に、マンホールの下に行く方法を聞くのを忘れていた。「少しでも可能性があれば挑戦したい」。そんな金メダリストの言葉だったか、10年間司法試験に挑戦した挙句、結局失敗してニートになった人の言葉だったかは忘れたが、それを思い出して、マンホールの下の世界への扉が開く可能性にかけてみたくなり、病院に戻って先生に話を聞いてみることにした。


「あ~、ダメダメ、この先は」
病院があったはずの場所に戻ると、立ち入り禁止と書かれたテープが貼られていた。周りには警察が数人立っていて、先ほどあったはずの病院がなくなっている。「ここって、病院があった場所ですよね?」と、トニーは警官に話を聞いてみた。すると若い警官が、「あ~、ここの先生、マンホールに落ちたカルテを取りに下に行って、地上に戻る時に上から落ちてきた釣り竿に刺さって死んじゃったみたい」

2015年9月7日月曜日

Day 16 デリバリーの行方

 トニーは今日、「デリバリーピザと間違って、デリヘルを頼んだ男」という本を読んだ。まさかそんな馬鹿な話はないだろうと思いながらも、トニーは最後まで一気に読んでしまった。
 要約すると、次のような話だ。急にピザが食べたくなった著者が電話をかけようとしたところ、番号を間違えたのかデリヘルにつながってしまい、しょうがないからそのままオーダーした。やって来たデリ嬢が著者の元クラスメートで、昔話で大いに盛り上がり、時間が来てしまいエッチができなかったという。その後、著者がこのデリ嬢から教えてもらった電話番号に電話をかけてみたところ、名も知らないピザ屋につながった。著者はやや困惑したが、この前にピザを食べ逃して散々な目にあった日を取り返そうとピザをオーダーした。
 ピザを届けに来た人がインターフォンを鳴らすと、そこにはあのデリヘル嬢、いや、元クラスメートがピザを持って立っていた。
 著者が中に迎え入れて一緒にピザを食べた。すると、嬢がためらいながら言った、「実は…私、ピザ屋のバイトと、デリヘル嬢を掛け持ちして、デリバリーの専門誌を発行してるの。私、編集長なの」。
 それを聞いた著者は、その専門誌のコラムに寄稿し始めた。その後、その専門誌は爆発的な人気となり、最終的にはイギリスの有名経済誌に数十億円で買収された。
 
 トニーはこの興味深い本をフトニーにも読ませてあげようと思って、フトニーの家にタクシーで向かった。


「おっ、トニー? どうした?」
「この本、すげぇ~面白いんだけど、読んでみて」
「ごめんごめん。それ、読んだことあるんだ」
「マジで?」
「マジで。しかも、その話には続きがあって…」
フトニーはトニーを部屋に上げると、部屋にはトニーの知らない女性がいた。濃いめの化粧をした女性はピザを食べながら、トニーに軽く会釈をした。
 フトニーはトニーにもピザを食べるように促し、微妙な空気で三人でピザを食べながら話を続けた。どうやらその女性はフトニーの彼女ではないらしいが、トニーは空気を読んで、あまりそこに突っ込むのは止めた。すると、ピザを食べながらフトニーが恥ずかしそうに言った、「その本の印税は、しっかりと貯金したぞ」。

 隠し事の多い、不思議な存在のフトニーだが、トニーはこれには驚いた。だが、豪華な額縁に入れて、部屋のテーブルに置いてあった賞には敬意を抱いた。
『芥木直川賞』。
10年に一度、しかも毎回一人しか受賞できないという、最高級の文学賞と言われている賞だ。
 トニーはフトニーとその女性のために敬意を表して、額縁に入った賞をバックに、フトニーとその女性の写真を撮りたいと申し出た。カメラを持つトニーの手は、興奮からか少し震えていた。その震えを必死に抑えながら、トニーは二人に向かって言った、「はい、チーズ」。

2015年9月4日金曜日

Day 15 諸行無常の温泉あり

 フトニーがトニーに面白い話があると言ってきた。どこで調べたのかは分からないが、温泉を掘り当てて一儲けしてみないか、と。掘り当てるというよりも、もう地表近くまで既に上がって来ていて、あとほんの一堀で、温泉の権利が得られる可能性があるらしい。常に暇をもてあましている二人は、その話を信じてその場所を探し当てることにした。

 フトニーがトニーの家までトニーを向かいに来て、一緒に出発した。出発直後に、ドスンと大きな音がした。トニーが慌てて車から降りて確認してみると、トニーの庭先の温泉に車がハマっただけだった。
「これで大丈夫!」と、トニーが自宅の物置から温泉ハマリ脱出機を取り出して、車の底部に優しく入れた。すると、ポンッという音とともに、車がヒョイと前に押し出された。運転席のフトニーが興奮気味に、トニーに親指を立てて合図をした。
 トニーが車に乗り込むとフトニーが、「温泉って油断できねぇ~な、マジ」と言うと、トニーが「抜かりのないようにしないとな」と応えた。


 車を走らせて3時間後、ようやく予定の場所に着いた。目の前には、多くの人だかりと、地上から噴水のように勢い良く吹き出す、熱気を帯びた水らしきものが雄叫びを上げるかのような現象を目の当たりにした。
 車から降りたトニーは、ランニングシャツを着ている、60歳前半から80歳半ば、いや、苦労をしてきた50代後半かもしれない住民らしきおじさんに、ストレートに聞いてみた。「寒くないっすか?」
「馬鹿言うじゃないよ w 目の前からほとばしるこの熱気をさ!」
「アハハ、そうですよね。ところで、これって温泉だと思うんですが…」
「そうだよ。もうこの温泉の権利は、893に抑えられたよ」
 それを聞いた二人は、がっくりと肩を落として家に帰ることにした。
  

 家に帰ると、トニーは両親に今日の出来事をすべて説明した。庭先の温泉に車がハマったこと、それをトニーがしっかりと救出したこと、目的の温泉は893の手でしっかりと抑えられていたこと、そして、893が手に火傷を負ったこと、そして、往復時に34回ほど、地面から突き上げるような熱湯に車が持ち上げられた謎の現象に遭遇したこと。
 それを聞いていたトニーの父さんが、トニーの肩を優しく叩きながら慰めるように言った、「おいしい話なんて、そんなに沸いて出てくるものじゃないからな」。

2015年9月2日水曜日

Day 14 鬱病の克服には『学問のススメ』?

 鬱病。現代病なのか、実は昔からあったが認知されてこなかったのかはわからないが、最近フトニーの父さんが、若干鬱的状態にあるという。フトニーによると、最近懸賞に当たる確率が下がっているらしく、将来を悲観し始めているのかもしれない。そんな父さんを助けたいということで、フトニーはトニーを誘って、あるカウンセリングセッションに行くことにした。

 フトニーがトニーを車で迎えに来ると、宝くじを未だに毎年当てているせいか、ますます明るいトニーの両親のはちきれんばかりの笑顔を見て、フトニーが早速鬱になった。
「あっ…、おじさん、おばさん、こ、こんにちは」と、元気なさげにフトニーがトニーに挨拶すると、トニーの父さんがフトニーに、「ほら、これで元気を出しな」と、現ナマで2万円を手渡した。するとトニーの鬱が一気に治った。「おじさん、おばさん、行ってきまっする!!」とフトニーが言って、トニーと一緒にカウンセリングに向かった。


 カウンセリングセッションが行われる会場前の入口に着くと、顔色が冴えない20名ぐらいの人たちが集まっていた。皆会場内には入っておらず、一枚の張り紙を見ていた。
「本日カウンセラーは鬱病で出席できません」
 当惑していた人たちや父さんのことを思い、フトニーは張り紙に書かれていた電話番号に電話をしてみた。すると、カウンセラーの奥さんが受話器に出て、今から家に来てほしいと言う。フトニーは、トニーと一緒にカウンセラーに会うことにした。


 カウンセラーの家に着き、トニーがインターフォンを押すと、「どうぞ!」と高いテンションで、トニーがカウンセラーに向かって言った。緊張して間違って自分から、しかも高いテンションで声を出してしまったトニーに向かって、「どうぞ! どうぞ!」と、カウンセラーとカウンセラーの奥さんがコブクロばりにハモりながら応対した。鬱病で出席できないと書かれていたが、意外なテンションの高さに驚いた。
「体調はだいじょうぶですか?」と、フトニーが聞くと、「いやぁ~、さっきロト6の2等が当たってさ!」と、カウンセラー夫妻が笑顔で応えた。それを見てトニーは、手に握りしめていた、くしゃくしゃになった福沢先生をポケットにそっとしまった。


 その後、フトニーが運転する車にカウンセラーの先生を乗せて、トニーと3人で会場に向かった。
 会場に着くと、まだ15名ぐらいが残っていた。

 1時間の講演を聞き終えて、フトニーもトニーも出席者も皆、表情には笑みがこぼれていた。いろいろな人生論、モチベーション論、ポジティブ心理学などをたっぷりと聞いた効果があったのか、あるいはカウンセラーの先生が幸運のおすそ分けとして、出席者全員に配った、くしゃくしゃになった諭吉先生の効果なのかは分からない。

2015年8月24日月曜日

Day 13 世界同時株安の今後を占うピンと来ない占い師

 世界同時株安の様子を呈してきた昨今の株式市場に一抹の不安を抱いたトニーは、フトニーと一緒に、知る人ぞ知る、一部で有名な占い師の元に行くことにした。
 フトニーが両手で大きな水晶を抱えながらトニーを迎えに、トニーの家にやって来た。「この水晶、運が上がるって言われてるやつだから」と言って、トニーの家の玄関に置いた。「いつも悪いわねぇ」とトニーの母親がフトニーに言って、水晶の代わりにドクロマークの入った地球儀をフトニーに渡した。「これで、もう迷わないでおくれ、ミスターオクレ」と、十八番の母さんジョークを、多少方向音痴のフトニーに笑いながら言った。「いえいえ、いつもすんまそん」と、フトニーがドクロマークに、油性ペンで可愛い目を付け足しながら応えた。「では、とにかくトニーと行ってきます」と言って、フトニーとトニーはフトニーの車に乗り込んだ。


 車を2時間ほど走らせて、有名な占い師が居るという場所に着いた。トニーがフトニーに、「あれっ? ここって普通のボーリング場じゃないの?」と言うと、フトニーが、「んだ。この中に、水晶占いで有名な占い師がいるから」と、月・水・金にしかめったに聞けない、十八番No2の訛りをバリバリ効かせて言った。

 ボーリング場の入口に行くと、中は真っ暗だった。そのまま中に入ると、ちょうど場内とレーンを暗くしたチャンスタイムの真っ最中だった。「うわぁ~、見えにくい」とトニーが言うと、フトニーが突然、「痛ってぇ~!!」と店内に響き渡ることはない程度の悲鳴をあげた。「どうしたんですか!?」とトニーが慌てて、変なおじさんに襲われた若い女性の元へ駆けつけるように聞くと、フトニーが9ポンドのドクロマークの入った地球儀を自分の足に落としていた。トニーがフトニーに、「大丈夫かぁ~?」と志村けんに訴えられるぐらいクリソツのトーンで言うと、「だいじょうぶだぁ~、あはは~ん…なわけねぇ~!! なわけねぇ~だろ!!」と真顔でノリツッコミ気味にトニーにかんしゃくを起こした。続けてフトニーがトニーに、「冗談冗談、怒ってねぇ~よ。それよりも、早く水晶占い師の所へ行こうぜ。そうすりゃ、この足だって元に戻るから」と言って、占い師を探すことにした。

 暗いボーリング場内のチャンスタイムで、各レーンの客が一斉に、平均11ポンドの水晶を和尚ピンに向かって投げている中で、一人だけピン側で水晶が投げられるのを待っている人がいた。フトニーがトニーに、「あの154ポンドのおばさんがそうだよ」と言って、投げられる水晶をジャンプ一番交わしながら、おばさんの近くに向かった。
トニーがおばさんに興奮気味に、「すいません! 占い師の方ですよね?」と聞くと、「い、いや、違いますけど」と言われた。
 その後ボーリング場内のすべての人に聞いてみたが、誰も占い師のことを知らないという。トニーがフトニーに不満そうに言うと、「いや、ネットで確かな情報だと知ったんだがな」と、タバコを一服ぷっかぁ~ふかした後かのような表情でトニーに応えた。常に情強情強と自分のことを誇りに思っているフトニーをあまり刺激したくなかったトニーは、あきらめて家に帰ることにした。

 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。有名な占い師が居るという場所というのは、ボーリング場だったこと、中に入ると、チャンスタイムで真っ暗だったこと、そのせいか、フトニーが9ポンドのドクロマークの入った地球儀を自分の足に落としたこと、トニーがノリツッコミ気味にかんしゃくを起こしたこと、場内では、客が平均11ポンドの水晶を和尚ピンに向かって投げていたこと、そして、占い師のおばさんは結局いなかったこと。
 それを聞いていたトニーの父さんが、「人生、そんなこともあるよ、あはは~ん」とトニーをなだめた。トニーは、「そっか」と、悟空並みに落ち着いて応えた。「そんなことより、しっかり玄関の鍵を占めてきておくれ」と父さんに言われて、トニーは玄関に行って鍵をしめた。そして、今日出掛ける前にフトニーにもらって、玄関に置いてあった水晶をのぞき込むと、154ポンドのおばさんが映っていた。

2015年8月23日日曜日

Day 12 ミステリーサークルの仕掛け

 トニーは今日、一人でミステリーサークルに行くことにした。先日某週刊誌で暴露されたミステリーサークルで、いよいよ火星人が地球に、いや、地元にやって来た可能性があると言うので、それを確認するためだ。この話をフトニーから聞いたトニーはフトニーに連絡したが、今日は忙しいということで、都合が合わなかった。
 トニーはグーパーと呼ばれる新しいタクシーアプリを利用して、ミステリーサークルまで向かうことにした。このアプリを利用するために、トニーは先月ガラケーからスマホに乗り換えたばかりだ。

 トニーがグーパーを使ってタクシーを呼ぶと、窓に円盤のシールをベタベタ貼ったタクシーが現れた。運転手が手のしびれを確認するかのように、手をグーパーグーパーさせて、トニーとアイコンタクトを取る。それに応じてトニーは、パーグーパーグーと、運転手に全て勝った。それが噛みあうと、運転手が車の自動ドアを手動で開けた。「グーパー」、「パーグー」。引きこもりでコミュ症でもお気軽にご利用できますとの通りに、会話をする必要がまったくない。さすが、時代を先取りしたグーパー。

 予めアプリで入力した行き先通りに、運転手はトニーをミステリーサークルへと連れて行った。運転手の「グーパー」に応じて、「パーグー」と出そうとしたが、油断したトニーは「チーグー」と出してしまった。「負け」と機械的なアナウンスが車内に流れ、トニーは割増料金を取られた。
 割増料金を取られたせいか、降りた瞬間に強力なガムを両足共に、計2枚踏んでしまったせいか、少しテンションが下がったトニーだが、ミステリーサークルへと向かった。
 
 その後週刊誌に書かれていたミステリーサークルの場所に向かって、30分ほど歩いていたが、それらしい場所は見えてこない。
 
 気づけばトニーは、そのまま3時間ほど歩いていた。強力なガムのせいで歩く速度が遅くなったのか、そろそろ疲れがたまってきたのか、このままだと何だかやばそうな気配を感じたトニーは、再びグーパーアプリでタクシーを呼んだ。

 トニーはずっとタクシーを待ち続けていたが、一向にやって来ない。「これは普通じゃない」と感じたトニーは、普通のタクシーを拾おうとするが、辺りにタクシーはまったく見当たらない。辺りにコンビニなどもなく、死の危険を感じたトニーは、歩いて帰ろうかともしたが、既に現在地や帰り方もわからなくなっていた。「やばい、やばい!」と慌てて、恥を忍んで警察に電話をしようとしたが、その瞬間に過呼吸症候群で意識を失った。


「おいトニー、トニー!」と、トニーの意識を確かめるように、フトニーが目の前で、手をグーパーグーパーさせている。「大丈夫だったか?」とフトニーに言われて、トニーは病院に運ばれたことに気が付いた。フトニーはトニーに、「急に倒れたって聞いて、慌ててこの病院に来たんだぞ」と、口の中で何かをクチャクチャさせながら言った。

 トニーは少し変な感じも覚えたが、気分を落ち着かせるために病室のテレビを見ると、臨時ニュースが流れていた。つい先程、何者かが強力な粘着性の物体を靴底に付けて作ったらしいという、ミステリーサークルが映し出されていた。

2015年8月20日木曜日

Day 11 スイッチの悲劇

 トニーは今日、甲子園の決勝を見るために、トニーと甲子園に行くことにした。運転手はいつものようにフトニーだ。左ハンドル仕様の車を、右ハンドルにして、「やっぱりスイッチヒッターみたいでかっこいいよな」と得意げなフトニー。「無理やり右ハンにして大丈夫なの?」と車の免許がないトニーがフトニーに言うと、フトニーが、「右ハンって何よ w 炒飯じゃないんだから w」と、フライパンを激しく上下に動かすジェスチャーをしながら、中華料理屋の前に車を止めた。
 中華料理屋で炒飯セットを頼んだ二人は、店内のテレビを見て注文を待っていた。「よし!、まだ分からんぞ!! 逆転あるぞ!!」などと店内は盛り上がっている。フトニーがトニーに、「これ、すごいゲームになってるな!」と言うと、トニーも興奮気味に、「さすが決勝だよな、甲子園の!!」。うん?

 フトニーとトニーが中華料理屋を出た頃には、既に決勝は7回まで終わっていた。フトニーがトニーに、「ここから甲子園までは、高速で飛ばしても5時間かかるぞ?」と言うと、トニーは、「飛行機にすっか?」と提案した。「いや、飛行機でも2時間ぐらいかかるんじゃね?」と、フトニーが左ハンドルに変えながら言った。するとトニーが、「うわぁっ!!」と、フトニーが急に左座席に来た時に、トニーが右座席に無理やり移動した際に、トニーの手が変な角度に曲がり、脇腹辺りが痙攣した。「もう無理だ、今日は無理だ」と、録音済みの音声を再生しながらトニーに意思を伝えた。「じゃあしょうがない」と、フトニーは右ハンドルに変えようと、右座席に移動する際に、痙攣したトニーを避けようとして腰をやった。「これは、やばいな、ヤンバルクイナ」と言って、車の窓から通りがかりの米軍兵に助けを求めた。「ダイジョウブデスカ?」と言って、親切な米兵が米軍のレッカー車をチャーターして、トニーの家まで送り届けてくれた。「コレ、コウシエンノケッショウノドウガリンクデス」と、動画サイトに違法に高速アップデートされた、さっきの決勝のフル動画を教えてくれた。


 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。甲子園に行こうとしたが、途中に寄った中華料理屋のテレビで、既に7回まで進んでいたことに気付いたこと、フトニーのスイッチハンドル車で、右左をスイッチ中に、トニーが脇腹辺りが痙攣した一方で、フトニーはその後の連続スイッチで腰をヒットしたこと、その危機を米軍に助けられたこと、その米兵が家まで送り届けくれたこと、その米兵に甲子園決勝のフル動画がアップされているサイトのリンク名を教えてもらったこと、そして、その動画を見ようと教えてもらったアドレスにアクセスすると、沖縄の米軍施設の辺野古移設を全面的に支持するサイトにリダイレクトされたこと。
 そんなトニーの話しを台所で聞いていた母さんが、時折フライパンを右手、左手にスイッチして、勢い良く上下に動かし、夕食の炒飯を作りながらトニーに言った、「本当に大変よ、スイッチって」。

2015年8月19日水曜日

Day 10 お化け屋敷の怪談

 トニーは今日フトニーと、暇つぶしにお化け屋敷に行った。
 フトニーがトニーを迎えに、トニーの家に来た。フトニーはトニーを驚かそうと、血の付いたキン肉マンの仮面をかぶって玄関に入ってきたが、同じ仮面を逆さまにしていたトニーを見てめまい。出発前に、フトニーは2時間トニーの部屋で寝た。
「いやぁ~、ゴメンゴメン」と言って起きてきたフトニーは、「恐ろしい夢を見たんだけど」と言って、トニーに怖い夢の内容を話した。
 フトニー家の金銭的な源泉である懸賞がまったく当たらなくなった夢らしい。さらに、トニー家の金運もすっかり落ちて、トニーが50代になって初めて仕事をする羽目になるという夢。
 二人は寒気がしてきたので、かき氷を2割ほど残した。
「まっ、おかげでお化け屋敷に行く前に、いいウォーミングアップになったな」とフトニーが言うと、トニーが、「いや、クールダウンじゃないか」と訂正した。どうでもいい。きのこの山とタケノコの里、どっちが好き?、という質問ぐらいどうでもいい。

 フトニーが運転席に座ると、トニーが、「後部座席になんか気配を感じないか?」と言った。「おい、脅かすなよ、フトニー!!」と、ヘリウムガスを吸って変な声で言ってきた。怖くなってきた二人は、トランクを開けて酸素ボンベを装着。
「よしっ!」と声を合わせて、お化け屋敷に向かった。


 運良く巻き込まれなかった3件の交通事故を除き、何事もなくお化け屋敷に着くと、中が真っ暗だった。そして入口付近には、一枚の張り紙が張ってあった、
「入場料 大人:1200円 子ども600円 お化け無料」。
フトニーとトニーは受付で2400円を払うと、店員が、「600円足りませんよ」と言った。
「えっ、大人二人ですけど…」とフトニーが言うと、「後ろのお子さんはご一緒じゃないんですか?」と店員が真顔で言う。フトニーとトニーが慌てて振り返ると、後ろには誰もいない。「誰もいませんけど」とトニーが言うと、「冗談ですよ、冗談」と店員が指を微かに横に動かしながら半笑いで応えた。
 変な応対だったが、これもお化け屋敷ジョークだろうと考えて、二人はお化け屋敷の入口に向かうために、階段を降りると、突然「ガクン!!!!!」と階段の下に落ちた。二人は大きな声で叫んだが、下にはお化けの仮面やらコスチュームを準備していた従業員たちの控室。しかも、「あそこでヘリウムガスを吸った後、もっと大きな声で脅かして!」とか、「客の胸は揉むなよ」とか、いろいろとしゃべっているのを聞いたトニーとフトニーは、テンションが下がってお化け屋敷を出てきた。


 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。お化け屋敷に行く前に、フトニーが演技でもない夢を見たこと、そのせいでかき氷を2割ほど残したこと、運良く巻き込まれなかった3件の交通事故を除いて、何事もなくお化け屋敷に無事に着いたこと、子供料金を追加でぼったくられそうになったこと、階段の下に落ちたこと、落ちた先が従業員たちの控室で、テンションが下がってお化け屋敷を出たこと、そして、帰り際に気付いたが、実は、受付の店員が自分の息子の料金をトニーとフトニーに払わせようとしていたこと。
 そんなトニーの話しを聞いていた父さんが、トニーに言った、「それは大変だったな。でもおかしいなぁ…さっきテレビで、あのお化け屋敷のオーナーが今日交通事故で亡くなって、お化け屋敷は営業を止めたって報道してたけど」。