2015年8月24日月曜日

Day 13 世界同時株安の今後を占うピンと来ない占い師

 世界同時株安の様子を呈してきた昨今の株式市場に一抹の不安を抱いたトニーは、フトニーと一緒に、知る人ぞ知る、一部で有名な占い師の元に行くことにした。
 フトニーが両手で大きな水晶を抱えながらトニーを迎えに、トニーの家にやって来た。「この水晶、運が上がるって言われてるやつだから」と言って、トニーの家の玄関に置いた。「いつも悪いわねぇ」とトニーの母親がフトニーに言って、水晶の代わりにドクロマークの入った地球儀をフトニーに渡した。「これで、もう迷わないでおくれ、ミスターオクレ」と、十八番の母さんジョークを、多少方向音痴のフトニーに笑いながら言った。「いえいえ、いつもすんまそん」と、フトニーがドクロマークに、油性ペンで可愛い目を付け足しながら応えた。「では、とにかくトニーと行ってきます」と言って、フトニーとトニーはフトニーの車に乗り込んだ。


 車を2時間ほど走らせて、有名な占い師が居るという場所に着いた。トニーがフトニーに、「あれっ? ここって普通のボーリング場じゃないの?」と言うと、フトニーが、「んだ。この中に、水晶占いで有名な占い師がいるから」と、月・水・金にしかめったに聞けない、十八番No2の訛りをバリバリ効かせて言った。

 ボーリング場の入口に行くと、中は真っ暗だった。そのまま中に入ると、ちょうど場内とレーンを暗くしたチャンスタイムの真っ最中だった。「うわぁ~、見えにくい」とトニーが言うと、フトニーが突然、「痛ってぇ~!!」と店内に響き渡ることはない程度の悲鳴をあげた。「どうしたんですか!?」とトニーが慌てて、変なおじさんに襲われた若い女性の元へ駆けつけるように聞くと、フトニーが9ポンドのドクロマークの入った地球儀を自分の足に落としていた。トニーがフトニーに、「大丈夫かぁ~?」と志村けんに訴えられるぐらいクリソツのトーンで言うと、「だいじょうぶだぁ~、あはは~ん…なわけねぇ~!! なわけねぇ~だろ!!」と真顔でノリツッコミ気味にトニーにかんしゃくを起こした。続けてフトニーがトニーに、「冗談冗談、怒ってねぇ~よ。それよりも、早く水晶占い師の所へ行こうぜ。そうすりゃ、この足だって元に戻るから」と言って、占い師を探すことにした。

 暗いボーリング場内のチャンスタイムで、各レーンの客が一斉に、平均11ポンドの水晶を和尚ピンに向かって投げている中で、一人だけピン側で水晶が投げられるのを待っている人がいた。フトニーがトニーに、「あの154ポンドのおばさんがそうだよ」と言って、投げられる水晶をジャンプ一番交わしながら、おばさんの近くに向かった。
トニーがおばさんに興奮気味に、「すいません! 占い師の方ですよね?」と聞くと、「い、いや、違いますけど」と言われた。
 その後ボーリング場内のすべての人に聞いてみたが、誰も占い師のことを知らないという。トニーがフトニーに不満そうに言うと、「いや、ネットで確かな情報だと知ったんだがな」と、タバコを一服ぷっかぁ~ふかした後かのような表情でトニーに応えた。常に情強情強と自分のことを誇りに思っているフトニーをあまり刺激したくなかったトニーは、あきらめて家に帰ることにした。

 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。有名な占い師が居るという場所というのは、ボーリング場だったこと、中に入ると、チャンスタイムで真っ暗だったこと、そのせいか、フトニーが9ポンドのドクロマークの入った地球儀を自分の足に落としたこと、トニーがノリツッコミ気味にかんしゃくを起こしたこと、場内では、客が平均11ポンドの水晶を和尚ピンに向かって投げていたこと、そして、占い師のおばさんは結局いなかったこと。
 それを聞いていたトニーの父さんが、「人生、そんなこともあるよ、あはは~ん」とトニーをなだめた。トニーは、「そっか」と、悟空並みに落ち着いて応えた。「そんなことより、しっかり玄関の鍵を占めてきておくれ」と父さんに言われて、トニーは玄関に行って鍵をしめた。そして、今日出掛ける前にフトニーにもらって、玄関に置いてあった水晶をのぞき込むと、154ポンドのおばさんが映っていた。

2015年8月23日日曜日

Day 12 ミステリーサークルの仕掛け

 トニーは今日、一人でミステリーサークルに行くことにした。先日某週刊誌で暴露されたミステリーサークルで、いよいよ火星人が地球に、いや、地元にやって来た可能性があると言うので、それを確認するためだ。この話をフトニーから聞いたトニーはフトニーに連絡したが、今日は忙しいということで、都合が合わなかった。
 トニーはグーパーと呼ばれる新しいタクシーアプリを利用して、ミステリーサークルまで向かうことにした。このアプリを利用するために、トニーは先月ガラケーからスマホに乗り換えたばかりだ。

 トニーがグーパーを使ってタクシーを呼ぶと、窓に円盤のシールをベタベタ貼ったタクシーが現れた。運転手が手のしびれを確認するかのように、手をグーパーグーパーさせて、トニーとアイコンタクトを取る。それに応じてトニーは、パーグーパーグーと、運転手に全て勝った。それが噛みあうと、運転手が車の自動ドアを手動で開けた。「グーパー」、「パーグー」。引きこもりでコミュ症でもお気軽にご利用できますとの通りに、会話をする必要がまったくない。さすが、時代を先取りしたグーパー。

 予めアプリで入力した行き先通りに、運転手はトニーをミステリーサークルへと連れて行った。運転手の「グーパー」に応じて、「パーグー」と出そうとしたが、油断したトニーは「チーグー」と出してしまった。「負け」と機械的なアナウンスが車内に流れ、トニーは割増料金を取られた。
 割増料金を取られたせいか、降りた瞬間に強力なガムを両足共に、計2枚踏んでしまったせいか、少しテンションが下がったトニーだが、ミステリーサークルへと向かった。
 
 その後週刊誌に書かれていたミステリーサークルの場所に向かって、30分ほど歩いていたが、それらしい場所は見えてこない。
 
 気づけばトニーは、そのまま3時間ほど歩いていた。強力なガムのせいで歩く速度が遅くなったのか、そろそろ疲れがたまってきたのか、このままだと何だかやばそうな気配を感じたトニーは、再びグーパーアプリでタクシーを呼んだ。

 トニーはずっとタクシーを待ち続けていたが、一向にやって来ない。「これは普通じゃない」と感じたトニーは、普通のタクシーを拾おうとするが、辺りにタクシーはまったく見当たらない。辺りにコンビニなどもなく、死の危険を感じたトニーは、歩いて帰ろうかともしたが、既に現在地や帰り方もわからなくなっていた。「やばい、やばい!」と慌てて、恥を忍んで警察に電話をしようとしたが、その瞬間に過呼吸症候群で意識を失った。


「おいトニー、トニー!」と、トニーの意識を確かめるように、フトニーが目の前で、手をグーパーグーパーさせている。「大丈夫だったか?」とフトニーに言われて、トニーは病院に運ばれたことに気が付いた。フトニーはトニーに、「急に倒れたって聞いて、慌ててこの病院に来たんだぞ」と、口の中で何かをクチャクチャさせながら言った。

 トニーは少し変な感じも覚えたが、気分を落ち着かせるために病室のテレビを見ると、臨時ニュースが流れていた。つい先程、何者かが強力な粘着性の物体を靴底に付けて作ったらしいという、ミステリーサークルが映し出されていた。

2015年8月20日木曜日

Day 11 スイッチの悲劇

 トニーは今日、甲子園の決勝を見るために、トニーと甲子園に行くことにした。運転手はいつものようにフトニーだ。左ハンドル仕様の車を、右ハンドルにして、「やっぱりスイッチヒッターみたいでかっこいいよな」と得意げなフトニー。「無理やり右ハンにして大丈夫なの?」と車の免許がないトニーがフトニーに言うと、フトニーが、「右ハンって何よ w 炒飯じゃないんだから w」と、フライパンを激しく上下に動かすジェスチャーをしながら、中華料理屋の前に車を止めた。
 中華料理屋で炒飯セットを頼んだ二人は、店内のテレビを見て注文を待っていた。「よし!、まだ分からんぞ!! 逆転あるぞ!!」などと店内は盛り上がっている。フトニーがトニーに、「これ、すごいゲームになってるな!」と言うと、トニーも興奮気味に、「さすが決勝だよな、甲子園の!!」。うん?

 フトニーとトニーが中華料理屋を出た頃には、既に決勝は7回まで終わっていた。フトニーがトニーに、「ここから甲子園までは、高速で飛ばしても5時間かかるぞ?」と言うと、トニーは、「飛行機にすっか?」と提案した。「いや、飛行機でも2時間ぐらいかかるんじゃね?」と、フトニーが左ハンドルに変えながら言った。するとトニーが、「うわぁっ!!」と、フトニーが急に左座席に来た時に、トニーが右座席に無理やり移動した際に、トニーの手が変な角度に曲がり、脇腹辺りが痙攣した。「もう無理だ、今日は無理だ」と、録音済みの音声を再生しながらトニーに意思を伝えた。「じゃあしょうがない」と、フトニーは右ハンドルに変えようと、右座席に移動する際に、痙攣したトニーを避けようとして腰をやった。「これは、やばいな、ヤンバルクイナ」と言って、車の窓から通りがかりの米軍兵に助けを求めた。「ダイジョウブデスカ?」と言って、親切な米兵が米軍のレッカー車をチャーターして、トニーの家まで送り届けてくれた。「コレ、コウシエンノケッショウノドウガリンクデス」と、動画サイトに違法に高速アップデートされた、さっきの決勝のフル動画を教えてくれた。


 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。甲子園に行こうとしたが、途中に寄った中華料理屋のテレビで、既に7回まで進んでいたことに気付いたこと、フトニーのスイッチハンドル車で、右左をスイッチ中に、トニーが脇腹辺りが痙攣した一方で、フトニーはその後の連続スイッチで腰をヒットしたこと、その危機を米軍に助けられたこと、その米兵が家まで送り届けくれたこと、その米兵に甲子園決勝のフル動画がアップされているサイトのリンク名を教えてもらったこと、そして、その動画を見ようと教えてもらったアドレスにアクセスすると、沖縄の米軍施設の辺野古移設を全面的に支持するサイトにリダイレクトされたこと。
 そんなトニーの話しを台所で聞いていた母さんが、時折フライパンを右手、左手にスイッチして、勢い良く上下に動かし、夕食の炒飯を作りながらトニーに言った、「本当に大変よ、スイッチって」。

2015年8月19日水曜日

Day 10 お化け屋敷の怪談

 トニーは今日フトニーと、暇つぶしにお化け屋敷に行った。
 フトニーがトニーを迎えに、トニーの家に来た。フトニーはトニーを驚かそうと、血の付いたキン肉マンの仮面をかぶって玄関に入ってきたが、同じ仮面を逆さまにしていたトニーを見てめまい。出発前に、フトニーは2時間トニーの部屋で寝た。
「いやぁ~、ゴメンゴメン」と言って起きてきたフトニーは、「恐ろしい夢を見たんだけど」と言って、トニーに怖い夢の内容を話した。
 フトニー家の金銭的な源泉である懸賞がまったく当たらなくなった夢らしい。さらに、トニー家の金運もすっかり落ちて、トニーが50代になって初めて仕事をする羽目になるという夢。
 二人は寒気がしてきたので、かき氷を2割ほど残した。
「まっ、おかげでお化け屋敷に行く前に、いいウォーミングアップになったな」とフトニーが言うと、トニーが、「いや、クールダウンじゃないか」と訂正した。どうでもいい。きのこの山とタケノコの里、どっちが好き?、という質問ぐらいどうでもいい。

 フトニーが運転席に座ると、トニーが、「後部座席になんか気配を感じないか?」と言った。「おい、脅かすなよ、フトニー!!」と、ヘリウムガスを吸って変な声で言ってきた。怖くなってきた二人は、トランクを開けて酸素ボンベを装着。
「よしっ!」と声を合わせて、お化け屋敷に向かった。


 運良く巻き込まれなかった3件の交通事故を除き、何事もなくお化け屋敷に着くと、中が真っ暗だった。そして入口付近には、一枚の張り紙が張ってあった、
「入場料 大人:1200円 子ども600円 お化け無料」。
フトニーとトニーは受付で2400円を払うと、店員が、「600円足りませんよ」と言った。
「えっ、大人二人ですけど…」とフトニーが言うと、「後ろのお子さんはご一緒じゃないんですか?」と店員が真顔で言う。フトニーとトニーが慌てて振り返ると、後ろには誰もいない。「誰もいませんけど」とトニーが言うと、「冗談ですよ、冗談」と店員が指を微かに横に動かしながら半笑いで応えた。
 変な応対だったが、これもお化け屋敷ジョークだろうと考えて、二人はお化け屋敷の入口に向かうために、階段を降りると、突然「ガクン!!!!!」と階段の下に落ちた。二人は大きな声で叫んだが、下にはお化けの仮面やらコスチュームを準備していた従業員たちの控室。しかも、「あそこでヘリウムガスを吸った後、もっと大きな声で脅かして!」とか、「客の胸は揉むなよ」とか、いろいろとしゃべっているのを聞いたトニーとフトニーは、テンションが下がってお化け屋敷を出てきた。


 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。お化け屋敷に行く前に、フトニーが演技でもない夢を見たこと、そのせいでかき氷を2割ほど残したこと、運良く巻き込まれなかった3件の交通事故を除いて、何事もなくお化け屋敷に無事に着いたこと、子供料金を追加でぼったくられそうになったこと、階段の下に落ちたこと、落ちた先が従業員たちの控室で、テンションが下がってお化け屋敷を出たこと、そして、帰り際に気付いたが、実は、受付の店員が自分の息子の料金をトニーとフトニーに払わせようとしていたこと。
 そんなトニーの話しを聞いていた父さんが、トニーに言った、「それは大変だったな。でもおかしいなぁ…さっきテレビで、あのお化け屋敷のオーナーが今日交通事故で亡くなって、お化け屋敷は営業を止めたって報道してたけど」。

2015年8月18日火曜日

Day 9 磨いてこその人生

 甲子園を見ていて刺激を受けたトニーとフトニーは、バッティングセンターに行くことにした。
 フトニーは運転席に辿り着く前に、危うく落ちていた野球ボールに足を滑らせて電柱に頭を打つところだった。そんなフトニーを見てトニーは、「久しぶりのバッティングセンターだからって、ちょっとテンション上げ過ぎじゃない」と、飛んできたバットをかわして車に乗り込んだ。
「んだなぁ、気をつけッペや~↑」と語尾を上げて、かぶっていた巨人の帽子をスッと取って、板東英二の燃えよドラゴンズ!をかけながら、ヤクルトを飲んでアクセルをふかした。

「カキーン」と、さっき飲んだヤクルトに当たったフトニーが慌ててコンビニのトイレに駆け込み、用を足した。そして、お礼代わりに、ロッテコアラのマーチを買って車に戻った。フトニーが車内のトニーに、「いやぁ~、早くもヒットしたわ」とお腹を触りながら言って、コアラのマーチを見せた。するとトニーは、去年行ったオーストラリア旅行で、木からコアラが落ちたのを思い出して、テンションが下がった。それを気遣ってフトニーが、「これやるよ」と言って、フトニーに1円あげた。それが、希少価値のあるという平成13年物だったせいか、フトニーのテンションが337厘戻った。


 いよいよバッティングセンターに着くと、中が真っ暗で何も見えない。入口付近には、一枚の張り紙が張ってあった。そこには、「アベノミクスのトリクルダウンの恩恵も受け取ることができず、無念ですが、お客様の多大なご支援を受けて1年半続いた当センターを閉鎖せざるを得なくなりました」と書かれていた。諦めて、トニーとフトニーは、家に帰ることにした。


 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。フトニーが運転席に辿り着く前に、危うく落ちていた野球ボールに足を滑らせて電柱に頭を打ちそうになったこと、飛んできたバットをかわして車に乗り込んだこと、フトニーがヤクルトに当たったこと、コアラのマーチを見て、去年行ったオーストラリア旅行で、木からコアラが落ちたのを思い出して、テンションが下がった一方で、フトニーからもらったプレミア付きの1円をもらって嬉しかったこと、バッティングセンターが閉鎖されていたこと、そして、行きに寄ったコンビニに帰りも寄ると、ものすごい大きな声で、「お願いします!、お願いします!」と大きな声で店長に頭を下げていた、バッティングセンターのオーナーがいたこと。
 そんなトニーの話しを聞いていた父さんが、トニーに言った、「野球はゲームセットまで何が起きるかわからない。人生も同じだ」

 その日トニーは、その父の言葉を頭の中で反芻させながら、夜遅くまで、昔から使っていたグローブのCDを丁寧に磨いた。

2015年8月15日土曜日

Day 8 これは心霊スポットか、ルーベルト?

「怖い場所に行くと霊感が敏感になるし、運も上がるんだよなぁ~たぶん」と父親に言われたトニーは、フトニーと一緒に、ネットで調べた怖い場所に車で出かけた。
 車を走らせて5分後、さっそくフトニーがなんだか霊感を感じ始めたのか、トニーに話しかけた、「おい、トニー、なんだかフワフワした感じ、しないか?」。するとトニーが、「確かにそうかもな…それに、なんだか景色があまり変わらないような気もするし…怖いな」と応えた。
 寒気がして、一旦車から降りた2人は、タイヤが全部外れていたことに気付いた。
「誰の仕業だ!!」と、降りて目の前にあった中古タイヤ屋経営者のおやじが、見覚えのある4つのタイヤを磨きながら言った。おそらくこのタイヤ屋のおやじが犯人だろうが、店の名前を見て、2人は怖くなって逃げた。「中古タイヤ、やくざ&ゴースト」。

 とりあえず、車輪なき車を移動させないといけない。そこで、二人は同時に、『誰かカレーかレッカー社』という、カレー屋兼レッカー車事業を営む会社にすぐに電話した。トニーの携帯が先につながり、二人はタイヤが取れた(いや、おそらく盗られたであろう)車をレッカー車で移動してもらいながら、車中でデリバリーカレーを食べた。
 その後、レッカー車の会社に着いてから、その会社の近くのタイヤ屋でタイヤをはめてもらった。

 再び怖い場所に向かって車を走らせて2時間後、「200メートル先、心霊スポット!!」という、大きな場内アナウンスが近くのパチンコ屋から聞こえてきた。「おい、トニー、そろそろじゃね~か?」とフトニーがトニーに向かって言うと、トニーが既に青白い顔で、「フトニー、車止めてれ、早く」と、手で腹を抑えている。
 近くのコンビニに駆け込んだトニーは、10分後清々しい顔で出てきた。「いやぁ~、さっきのカレーだわ、これ」と、カレーで腹を壊したようだ。「カレーで食あたりなんて、カレーこれ10年ぶりじゃないか…、いや、3週間ブリブリかもな…」などと、目を少し白黒させている。
 フトニーは、既に怖くなってきた。フトニーはトニーに、「今日は一旦、帰ろう、トニー。やばそうだから、ここは」と言って、出発前にトニーの父親からもらった、呪いのベルトをなんとか外した。


 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。車を走らせて5分で、早速霊感を感じ始めたこと、そのせいか、タイヤが4つすべて消失したこと、『誰かカレーかレッカー社』を呼んだこと、『誰かカレーかレッカー社』のカレーにあたったこと、「200メートル先、心霊スポット!!」という、大きな場内アナウンスが近くのパチンコ屋から聞こえてきたこと、帰る前にフトニーが呪いのベルトをなんとか外したこと、そして、本当は、帰りにもう一度頼んだ『誰かカレー』を食べて、呪いのベルトにルーが少し付いてしまったこと…。
 そんなトニーの話しを微笑ましく聞きながら、父さんは微笑を浮かべて、『誰かカレーかレッカー社』のウェブちらしを印刷していた。

2015年8月14日金曜日

Day 7 ホットスイーツ

 トニーは今日フトニーと、行列ができるラーメン屋にふと出かけた。「幸運の俺たち金持ちは、やっぱメーランっしょ」と、車中でウキウキ言ってきたフトニーに、トニーは「あまり調子に乗らない方がいい。幸運を吹聴すると、運が落ちるってオラの父ちゃんが言ってたぞ」とフトニーを諭した。するとフトニーは、「オラの父さんは真逆のことを言っていたぞ。調子に乗った方が幸運がやってくることもあるんだよ」とトニーに言った。確かに、フトニーの父さんは去年、車を運転中に右側の道路に落ちていた500円に気付いて急停止し、500円をサッと拾って対向車に危うく引かれる夢を見た翌日に、パチンコ屋の前で1万円を拾って、その1万円がきっかけでギャンブル依存症になった人をカウンセリングで助けて、その人の親が金持ちで、謝礼として、ものすごい甘いメロンをもらったことがある。


「さぁ、着いたぞ」と言って、トニーとフトニーは、フトニーの父さんが1万円を拾ったパチンコ屋の前でふと降りた。フトニーがトニーに言った、
「オラの父ちゃん、あのメロンの甘さは忘れられないってよく言ってるんだ」
「分かる気がする、それ」
「だろ? そのメロンって、父ちゃんがあの日帰りにちょっと立ち寄った、いきつけの風俗嬢からももらったんだって、同じ日に」
「同じ日に? 次の日じゃなくて?」
 ハングリーゴッドが二人に力を貸したのか、そんなメロントークを交わしながら、二人はパチンコ屋の裏手にあるラーメン屋に向かって加速した。
「うわぁ…すごい行列」とトニーがフトニーに言いながら、「隠れた名店らしいからな、やっぱり」と、フトニーが、さっき路上でサッと拾った昭和64年のプレミア付きの500円硬貨を見てニヤニヤしながら言った。
「じゃあ、どっちに入る、トニー?」とフトニーが聞いてきた。そう、なんと2つの行列が両隣のラーメン屋の前に出来ている。1回で2種類の味を味わうために、フトニーが右側のラーメン屋に、トニーが左側のラーメン屋に入った。

「いやぁ~、ひどい」と言って二人は同時に出てきた。
「店内、アホみたいに暑かったぞ…。死ぬかと思った。しかも、なんだよ、メロンラーメンって!」とフトニーが言うと、
「こっちもそう。冷房壊れてんじゃないか。しかも、俺の食べたチョコレートラーメンのチョコなんて、さっきのパチンコ屋の景品で出してるやつだぞ」と、トニーが応えた。
「結局、行列ができているからと言って、周りに流されてはダメだ」と、二人は声を揃えて言いながら、携帯で撮った。


 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。フトニーとラーメン屋に行ったこと、途中でフトニーの父ちゃんのメロンエピソードを思い出したこと、フトニーが昭和64年のプレミア付きの500円硬貨を拾ったこと、行列のできるラーメン屋のラーメンが、どちらもスイーツ過ぎるラーメンだったこと、店内が異常に暑かったこと、チョコラーメンのチョコがパチンコ屋の景品と同じだったこと、そして、フトニーが昭和64年のプレミア付きの500円硬貨を拾ったときに、本当は対向車にひかれて手が折れていたこと。
 それを聞いたトニーの父さんは、「そんなことより、携帯で撮ったやつを早くアップしなさい」と言ったので、トニーはユーブチョー(YouBuchosan)にアップロードした。
 寝る前に世間の反応を確認するためにそのページを見ると、コメント欄が荒れていた:
・何言ってんだこいつら www ジャンジャンジャンジャンパチ屋の音で何も聞こえねぇ wwwww
・この2店、ネットで最低の店って言われてんぞ www サクラを使って行列を作ってるって www
・炎上商法で有名な店じゃん www 情弱 wwwwww
・って言うか、リアルに店燃えてんじゃん wwwww
・行列は甘い罠

2015年8月13日木曜日

Day 6 ダッフンダの秘密と幸運の兆し

「ダッフンダを踏んだら運が上がる」。
フトニーがネットで入手したという情報を頼りに、トニーはフトニーと一緒にダッフンダを探しに家を出た。
「人生なんて結局運がすべてだろ、トニー。そう思わないか?」とフトニーが車の中でトニーに言った。実際に、トニーの父さんが去年サマージャンボ宝くじの1等を当てた当日、家を出てすぐに犬のうんこを踏んだ。そのせいで一度家に帰り、新しい靴に履き替えてから宝くじ売り場に向かったが、そのおかげで当選した。もし、あの時普通に売り場に行っていたら、当たっていなかった。そんな話をフトニーに車中で話しながら、トニーは靴の裏についていた馬の糞を振りほどいた。「うわぁ~」とフトニーに嫌な顔をされたが、フトニーの顔にはどことなく神妙な笑みが浮かんでいる。
「これはキタナ、俺」
「キタナどころじゃないぞ。汚いぞ」


 自宅から車で2時間ほどの場所に着いた。途中でガソリンがなくなり、二人で一緒に車を押したり、その辺にいた馬に車を引っ張ってもらったり、なかなかの道中だった。
 車から降りた2人は、ダッフンダがあると言う、森の中に入っていた。
「もう踏むなよ、トニー」
「分かってるって、フトニー」
森の中には、いろんな動物の、消化器官から排泄されるアレが大量にあった。ソレを時にはジャンプしながら、ある時はそのジャンプのせいで逆に深くアレが靴の裏に突き刺さりながらも、なんとかダッフンダを求めて、森の深みへと進んでいくと、ダッフンダがありそうな雰囲気がガンガン漂っている、うんこの形をした寺みたいな場所に辿り着いた。
「ここで、マチガイナイ」。
二人は興奮して同時に言った。
 アレの形をした寺みたいな場所の肛門をかいくぐると、住職らしき人が、糞の形をした帽子を取ってあいさつをしてきた。
「ダッフンダ」
「だ、ダッフンダ……」
トニーが恐る恐るダッフンダと応答すると、フトニーがトニーに、「もっと丁寧に!」と強く言った。そして住職らしき人に、「すいません! ダ、ダッフンダです m(_ _)m」とトニーが言い直すと、住職が、「いいんですよ。どうせ、ここにもはや、ダッフンダはありませんから…」。
「どういうことですか?」
「今まで何人もの人がここに来たせいで、もうダッフンダが空になってしまったんです。いや、正確に言うと、実際にはダッフンダなんて、なかったんでしょうね、きっと…」
 和尚がそう答えると、急に突風が吹いてきた。それに反応して鼻がムズムズしてきたのか、和尚が、「ダッ、ダッフンダァ!!!」と大きなくしゃみをした。そのくしゃみを見たフトニーがトニーに言った、「これはないわ。こうなったら、ダッフンダはないってことだから」。「だよな、こんなの都市伝説だよな」と納得したトニーを乗せて帰った。フトニーは外国製の愛車、DAFFUNDAのアクセルをしっかりと踏んだ。
 

 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。途中でガソリンがなくなり、フトニーと二人で一緒に車を押したり、その辺にいた馬に車を引っ張ってもらったこと、森の中には、いろんな動物の消化器官から排泄されるアレが大量にあったこと、うんこの形をした寺みたいな場所に辿り着いたこと、結局ダッフンダはなかったこと、そして、本当は、和尚が飼っていた馬に思いっきり蹴られたこと。それを聞いたトニーの父さんは、トニーが寝る前に一言言った、「大きな幸運がやって来る前の人生ってのは、ふんだり蹴ったりだ」。

2015年8月8日土曜日

Day 5 パワースポットでかかる

「来年夏のサマージャンボ宝くじに向けて、冬の今のうちから金運を上げるために、俺の代わりにパワースポットへ行ってくれ」と父親に言われたトニーは、自宅から車で1時間ほどのところにあるパワースポットへフトニーと向かった。
 自宅から5分ほどのところにあるコンビニでフトニーは、数日続いていたという便秘を一挙に解消。「さすがパワースポットだな」とフトニーが言うと、「途中でこのパワーだからな」と、トニーが激しく頷く。
 二人はコンビニを出て車を走らせる。だがすぐに、車の前輪がボッロンと外れた。そしてグングンとパワースポットに導かれるように、前に転がっていく。それを見た2人は、「パワースポットは、あっちの方角だな」と指をさして車に戻る。すると、近くにいたおじさんが入れ歯を入れるように、替えの前輪をスポッと入れてくれた。


 パワースポットに着いた二人は、周りの景色を見渡した。「本当にここがパワースポットなのか」と疑問を抱いたが、ちょうどパワースポットの真ん中の柱にひらがなで、「ぱわぁ」と書いてあったのを見て一安心。
 少し腹が減った二人は、パワースポットの中にあった焼肉屋へ入った。満席で20人程度は入れるかという店内で、店内には93歳ぐらいの店主が一人。トニーとフトニーは同じテーブルで、店主と一緒に焼き肉を食べた。A5クラスじゃないかという高級和牛の動画をユーチューブで見ながら、G3の肉を一緒に焼いて食べた。焼き肉がバチバチと音を立てながら焼けてくると、「うわっ!!! すごい油ですね!!」とトニーが店主に言った。すると店主は、「パワースポットだからね、うちは」と、笑顔で、口いっぱいに生焼けのもやしを入れながら応えた。
 食べ終えて焼肉屋を出たトニーとフトニーは、油でギットギトになった手を、パワースポットの手洗い所で、ハンドソープを使ってスパットと洗い流した。指紋が消えそうなぐらいきれいになった手を見て、二人は声を揃えて言った、「さすがパワースポットだな」。


 ものすごい早さで森林をなぎ倒すように運転する夢を思い出しながら、トニーは40キロ前後で安全運転。「ちょっとパワースポットにパワー盗られたかも」とトニーが言うと、フトニーが、「あの肉の影響ジャマイカ。俺もちょっと腹の調子が悪い」と応えた。

 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。パワースポットに行く途中のコンビニで、フトニーが便秘を解消するほどの便を排出したこと。コンビニを出たら、車の前輪がボッロンと外れたこと。パワースポットの中にあった焼肉屋で、高級和牛の動画をユーチューブで見ながら、G3の肉を93歳ぐらいの店主と一緒に食べたこと。フトニーが便秘を解消したパワースポットコンビニに帰りも寄って、フトニーが軟便を解消したこと。その話を聞きながら、トニーの母さんは鏡を見ながら、額に書かれた腐肉という文字を消していた。
 その話が終わった跡、トニーは自分の部屋に戻り、天上の監視カメラを見ながら寝た。ただ、フトニーから寝る前に送られてきたメールが少しひっかかっていた、「あのじーさん、すごかったな」。

2015年8月6日木曜日

Day 4 監視社会の裏表

 広瀬香美の『ゲレンデがとけるほど恋したい』と、チューブの『夏を待ちきれなくて』を同時に聞いて頭が痛くなったトニーは、銭湯でリラックスすることにした。
 まず、どこの銭湯に行こうかとネットで検索。画像検索しながら、銭湯の外観が城みたいなことにふと気付いた。その理由を、同時にリピート機能でかけていた、広瀬香美の『ゲレンデがとけるほど恋したい』とチューブの『夏を待ちきれなくて』の音量を小さくしてから、迷惑メールを通じて知り合ったメル友にチャットで聞いてみた。
トニー 「ねぇワクニー、カクカクシカジカ…なんだけど、なんでだろう、なんでだろう?」
ワクニー 「その前に、パソコンの調子はだいじょうぶか?」
チャットをしていると、優しいワクニーが、先日突然ダウンしたトニーのパソコンの調子を気遣ってくれた。フトニーから懸賞品の新しいパソコンをもらったからだいじょうぶだよとトニーが伝えると、メル友はトニーの質問の答えを必死に考えて返信してくれた。
「昔、城で指揮を取っていた武将たちが、温泉好きだったからジャマイカ?」
なるほどと、大きく頷いたトニーは、首をやられた。リラックス目的から首の治療へと目的が変わったトニーは、足早に銭湯に向かった。


 グーグルマップで検索した場所の銭湯にたどり着いたが、トニーが思っていた銭湯とはちょっと違った。銭湯なんて久しぶりなせいか、勝手がよく分からない。まさか、女の人と一対一の銭湯なんて…。これはおかしい。絶対に普通の銭湯ではない。メル友に言われた銭湯だったし、外の張り紙に映っていた店長の顔がフトニーに少し似ている点も気にはなったが、トニーは自分の感覚を信じて、違う銭湯に向かった。
 
 男湯女湯と別れている、外観が城みたいなちゃんとした銭湯にたどり着いた。すると、銭湯内が真っ暗なことに気が付いた。そして、外には一枚の張り紙が貼ってあった。「申し訳ございませんが、営業を停止しております。お湯が盗られました」。それを見たトニーの脳裏に一瞬、「ドリフターズ」の文字が浮かんだ。だが、もう一枚の張り紙を見て、そうじゃないだろうと思った、「銭湯内で、監視カメラ動作中」。これはドリフターズではなくて、田代コース…。とにかく、もう今日は帰るしかない。トニーはタクシーを拾って自宅に帰った。


 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。広瀬香美の『ゲレンデがとけるほど恋したい』と、チューブの『夏を待ちきれなくて』を同時に聞いて頭が痛くなったこと、迷惑メールを通じて知り合ったメル友とチャットして頷いて首がやられちまったこと、メル友に教えてもらった銭湯が、女の人と一対一の銭湯だったこと、そこに入らずに、普通の銭湯に行ったら営業停止中だったこと、その理由が田代的なことだったこと、そして、競争を勝ち抜くために付加価値を高めているというタクシー会社のネックヒーラー式シートベルトIIで、首が治ったこと。
 その話が終わった跡、トニーは自分の部屋に戻り、天上の監視カメラを見ながら寝た。監視カメラに、フトニーらしき人物が裸の女性にムチで叩かれていたことは、見なかったことにした。

2015年8月4日火曜日

Day 3 走り屋の秘密

 昼頃に目を覚まし、ブランチを食べに外へ出かけたトニーは、通りすがりの若者数人が、トニーの方を見てこそこそ、クスクス、糞しながら笑って指を差しているのに気が付いた。トニーは一応社会の窓を確認した。窓はしっかりとしまっていたが、ポケットから黄色い大きな財布が4分の3ほど飛び出ていることに気付いた。フトニーからもらった、幸運を呼び込むと言われているらしい、大きめの細長い財布だ。そう言えば、この財布を使い始めて以来、誰かから毎日監視されている気がしてならない。
 と、まさにその時、トニーの携帯が鳴った。音量は普通に設定してあったが、超強に設定してあったバイブ機能がブルブルとポケットで暴れだし、トニーの社会の窓が僅かに開いた。
「まさかこれも、この財布のせいか…あるいは…バイブ機能のせいか…」
あれこれ頭の中で駆け巡りながら、トニーの横を駅伝の第1集団が駆け巡る。その先頭から少し離れたランナーが、先頭を目指して激走しながら捨てた紙コップが、慣性の法則でトニーのポケットに飛んできた。そのおかげで、トニーの携帯に水がバチャッとかかった。だが、バイブ機能の超強設定のおかげで、携帯は水をブルブルっ!!と跳ね返し、事なきを得てほっとしていると、再び携帯が鳴り響く。番号は非通知だ。だが、携帯画面には、フトニーの顔が映っている。
「おい、フトニー?」
「はぁっ!? なんで分かった、トニー?」
「男の直感だよ、フトニー」
「お前まさか、黄色い財布の力で勘が研ぎ澄まされてきたんじゃ…」
「フフっ、フトニー。そのまさか、あるいは…」
「あるいはって、お前…あまり調子に乗っていると、その神通力が…」
と、フトニーが言うと、
「うわぁああああああああ!!」
「おい、トニー!! どうした!!? だいじょうぶかぁ~!!??」と、フトニーは最後の部分に志村けんを織り交ぜながらトニーに向かって叫んだ。
「第2、第2集団の…」とトニーは言い残して、携帯が切れた。


 心配になって、監視カメラの記録からトニーの居場所を突き止めたフトニーは、法定違反かもしれない、時速150キロで飛ばしてトニーの場所へと向かった。
「いやぁ、まじで人生油断できないな。まさか第2集団に踏まれるとはな」
「だから言ったろ。4分の3も黄色い財布を見せるからだよん」と、フトニーはトニーを戒めるように、腕まくりをして、第3集団に踏まれた跡を見せた。

 トニーとフトニーはその後、地元の駅で言い伝えられる、駅弁をブランチ用に購入。駅弁を持って近くの公園に行き、ベンチに座って食べた。トニーは運悪く食あたりにでも遭ったのか、急に腹が痛くなり、タクシーを拾って、車で約3時間離れたところにある病院に向かった。

 車内で寝ていたせいか、意外にだいぶ早く病院に着くと、院内が……煌々(こうこう)と明るく照らされていた。しかも、理由はよく分からないが、多くの患者が目を抑えている。それを見たトニーも明るい表情で、タクシー運転手のフトニーに言った、「腹、治ってる」。


「金はいらねぇ~よ」と、自宅まで送ってくれたタクシー運転手のフトニーは言った。家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。黄色い財布、通りすがりの若者、携帯の超強バイブ機能の副作用、駅伝集団の走り、駅弁ブランチ、食あたり。煌々と明るい病院。そして、病院に着いた時には、腹痛が既に治っていたこと。両親はそんなトニーの一日の話を、駅伝の第1集団の誰かが捨てた紙コップがトニーに当たったシーンをビデオで見ながら聞いていた。トニーは自分の部屋に戻り、天上の監視カメラに手を合わせて寝た。そして、眠りに落ちる前に、タクシー運転手のフトニーが残した言葉が、トニーの頭の中でこだました、
「さすが、実業団仕様のシートベルトだよな」

2015年8月3日月曜日

Day 2 見えない炎

 トニーが昼頃に目を覚まし、居間に向かうと、久しぶりに48歳のいとこのフトニーがいた。
「よっ、トニー? 元気してたか?」と、バスケのスリーポイントシュートのマネをしながら、トニーに向かってスイカを投げてきた。トニーはそれをヘディングでフトニーに返して言った、
「フトニー、またリバウンド?」
「トニーはいいよな。どれだけ食っても、100キロいかないもんな~」
フトニーは101キロの巨体を揺らしながら、うまく決まらなかったスリーポイントシュートのリバウンドを待ち構えるマネをしながら、スイカをガブリ。その様子を、トニーの母さんがビデオで撮影し、ネットにアップしようと目論んでいる。トニーの両親は、時間的にも金銭的にも余裕がありすぎるせいか、年の割に、若者みたいなことをやっている。トニーの母さんは、これまでに100動画をアップし、合計視聴回数はすでに100を超えている。「このバスケ動画で、また儲かってしまうな、ユーチューバーさん」。「そうですね、宝くじーさん」。
 お互いにキマってドヤ顔の二人は、フトニーが懸賞で当てて、今朝くれたパソコンを使って早速ネットにアップした。アップをしてしまえば、もうこっちのものだと言わんばかりに、アップをしてからウィンドウズの更新を無視してビシッと途中でシャットダウンした。トニーの父さんが、「母さん、これではビル・ゲイツも手出しできないわね」とオカマ口調で言うと、トニーの母さんが一言言い放った、「だっふんだ」。


 トニーとフトニーは、フトニーが運転する車で電気屋に向かった。ちなみにこの車も、フトニーが懸賞で当てたものだ。トニー家が宝くじ一家だとすれば、フトニー家は、懸賞くじ一家だ。フトニーも、とにーかくまともに働いたことがない。フトニーの両親も懸賞で何不自由ない生活を送っている。それを聞いた登山家の某芸能人が、あと5歩でエベレスト登頂というところから、慌てて下山してその秘密を聞きにきたら面白いぐらいだ。


「さあ、着いたぞ、トニー」
「おぉおおおおおお貞治、これがフトニー御用達のフィギュアショップか」
 フトニーは気分が良かったのか、電気屋に向かう途中の森林の中を暴走。そこを抜けて、子供の頃からフトニーが秘密と言って隠し続けていたフィギュアショップに連れて行ってくれた。さすがに体中に電気が走った。
 フトニーと車から降りてショップに向かうと、店内が真っ暗。そして、店の前には一枚の張り紙が貼ってあった、「監視カメラ、動作中」。
 諦めて車に戻り帰ろうとすると、フトニーの車が動かない。すると、ショップの近くにいた40代後半から70代前半ぐらいのおばさんがトニーに話しかけてきた、
「あなた、アベノミクスの恩恵は受けたの?」
「いえ、まだですけど、何か?」
「おばさんは今、38歳なんだけど…」
「だけど、何ですか?」
「い、いや、何でもないの」
そう言いながら、半笑いでおばさんはトニーに背を向けた。続きが気になったトニーは、「おばさん、待ってください! どうしたんですか?」と話しかけると、おばさんは我慢できなさそうに、
「あのねぇ~、きっとねぇ~、今ねぇ~…ここの監視カメラ動作してないよ」と、前半に子どもの頃の貴乃花を織り交ぜながら、貴重な情報を放り込んできた。おばさんに思いっきり頭を下げてお礼をした勢いで、トニーは腰がやられた。トニーとフトニーは、ちょうど止まっていたタクシーを拾って帰宅した。


 帰宅後、トニーは両親に事情をすべて説明した。森林の奥を抜け出て、フトニー御用達のフィギュアショップに行ったこと。店内が真っ暗だったこと、子どもの頃の貴乃花をぶっこんできた38歳のおばさんのこと、礼儀を尽くして腰がやられたこと、そして、競争を勝ち抜くために付加価値を高めているというタクシー会社の磁力シートベルトで腰が治ったこと。それを聞いた父さんはトニーに向かって、「監視カメラはいいよな」と、志村けんのいいよなおじさんを上回るぐらいの表情と、母ちゃん手製のいいよなおじさんの衣装セットを自慢気に見せながら言った。
 この日フトニーはトニーの部屋に泊まろうとしたが、フトニーの父さんから緊急の連絡メールがあって、帰宅した。フトニーが帰る前に、トニーはそのメールを見せてもらって、手が震えた。

懸賞に

命を懸けて

腱鞘炎