2015年9月4日金曜日

Day 15 諸行無常の温泉あり

 フトニーがトニーに面白い話があると言ってきた。どこで調べたのかは分からないが、温泉を掘り当てて一儲けしてみないか、と。掘り当てるというよりも、もう地表近くまで既に上がって来ていて、あとほんの一堀で、温泉の権利が得られる可能性があるらしい。常に暇をもてあましている二人は、その話を信じてその場所を探し当てることにした。

 フトニーがトニーの家までトニーを向かいに来て、一緒に出発した。出発直後に、ドスンと大きな音がした。トニーが慌てて車から降りて確認してみると、トニーの庭先の温泉に車がハマっただけだった。
「これで大丈夫!」と、トニーが自宅の物置から温泉ハマリ脱出機を取り出して、車の底部に優しく入れた。すると、ポンッという音とともに、車がヒョイと前に押し出された。運転席のフトニーが興奮気味に、トニーに親指を立てて合図をした。
 トニーが車に乗り込むとフトニーが、「温泉って油断できねぇ~な、マジ」と言うと、トニーが「抜かりのないようにしないとな」と応えた。


 車を走らせて3時間後、ようやく予定の場所に着いた。目の前には、多くの人だかりと、地上から噴水のように勢い良く吹き出す、熱気を帯びた水らしきものが雄叫びを上げるかのような現象を目の当たりにした。
 車から降りたトニーは、ランニングシャツを着ている、60歳前半から80歳半ば、いや、苦労をしてきた50代後半かもしれない住民らしきおじさんに、ストレートに聞いてみた。「寒くないっすか?」
「馬鹿言うじゃないよ w 目の前からほとばしるこの熱気をさ!」
「アハハ、そうですよね。ところで、これって温泉だと思うんですが…」
「そうだよ。もうこの温泉の権利は、893に抑えられたよ」
 それを聞いた二人は、がっくりと肩を落として家に帰ることにした。
  

 家に帰ると、トニーは両親に今日の出来事をすべて説明した。庭先の温泉に車がハマったこと、それをトニーがしっかりと救出したこと、目的の温泉は893の手でしっかりと抑えられていたこと、そして、893が手に火傷を負ったこと、そして、往復時に34回ほど、地面から突き上げるような熱湯に車が持ち上げられた謎の現象に遭遇したこと。
 それを聞いていたトニーの父さんが、トニーの肩を優しく叩きながら慰めるように言った、「おいしい話なんて、そんなに沸いて出てくるものじゃないからな」。

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